一次産品の持つ恐るべきパワー
お久しぶりです。
今日は堅めの話をしようかと思います。
本を読んで考えさせられた一次産品の話です!
[:contents]目次
- なぜ今、一次産品なのか
- 増大するレアメタルの需要
- 過去に起こった一次産品をめぐるクラッシュ
1.なぜ今、一次産品なのか
最近、レアメタルや銀の本を読んでいて思ったことですが、
原料をめぐる争奪戦って、歴史上幾度となく繰り返されていたんだなあと。
そんな紛争を引き起こしてきた原料たちは、茶に銀に砂糖、チューリップや石炭石油…など数多い。
この21世紀、製品加工技術や無形のデジタル部門の話をよく聞くし、
一次産品はどこか途上国のイメージと結びつきやすい。
一次産品に依存した経済から脱却しよう!なんて声が聞こえてくる世である。
では、この争奪戦は現代の先進国には無縁なのか?
答えは全くの逆である。
今一度、一次産品の価値を考え直してみたい。
現在でも石油やLNG(液化天然ガス)といった資源は我々の生活を支えている。
そしてその供給は数多くの利権や輸送障壁がかさむため、決して簡単ではない。
今年こそ、寒波による影響でLNGが不足し、あやうく電気がストップするところだった。
すぐにLNGを輸入すればよいと思うが、契約の種類や輸送タンカーの空きなど、LNG輸入には様々な条件が関わっており、非常に複雑なわけだ。
他にも、石油危機や野菜の不作など多くの供給ショックが思い浮かぶだろう。
ではなぜ、一次産品の供給がこんなにも混乱を引き起こしていたのか?
答えは簡単で、一次産品は作らなければ生まれないものだからだ。
どういうことかというと、一次産品は有形で有限なものである。
つまり、無形の技術と違っていつまでも存在し続け、いつでも入手できるわけではないのだ。
もっと単純に言うと、一次産品がなければ何も始まらない。
また、加工などの技術ももともとの原材料が無ければ宝の持ち腐れというか、無価値なのだ。
だからもし、一次産品の生産国が輸出をストップすれば、加工技術に依存した先進国たちはパニックに陥る。
2.増大するレアメタルの需要
そんな現代に新たな原材料争奪戦が生まれようとしている。
その産品がレアメタルだ。
*レアメタル・・・金属の中でも産出が特定の地域に偏在している、あるいは採掘が難しいなどの理由で、供給が限られている金属。鉄や銅、アルミなどの主要金属はレアメタルには含まれない。
使われ始めたのは1980年代頃だが、その需要は近年激増している。
そして、その需要は再生可能エネルギーへの転換が進んだ場合、今後15年で倍になると言われる。
コバルトなど、金属によっては需要が数十倍になるものもある。
その用途は様々だが、特に最近だとスマートフォンや太陽光パネル、
そして電気自動車など、盛り上がりを見せる分野で需要が伸びると言われている。
より高度で大規模な情報網が張り巡らされた社会を作るとなると、どうも高性能な金属が必要になるらしい。
となれば、今まで以上にレアメタルをめぐる競争が激しくなる。
まさに、20世紀の石油を彷彿とさせる。。。
今はあまり取りざたされていないが、今後十年あるいは数年でレアメタルに関する新聞記事はぐっと増えるんじゃないだろうか。
昔はアメリカでの生産が大半だったレアメタルだが、今では多くのレアメタルが中国で最も生産されている。
中国の低コストかつ環境規制を気にしない生産により、他国のレアメタル採掘業は衰退に追い込まれたのだ。
この一次産品を握る中国、レアメタルの鉱石だけでなく付加価値を乗せる加工部分でも覇権を握ろうとしている。
もともと、加工部分では日本や欧米諸国が強かった。
しかし、中国は低コストでの生産を餌に、生産拠点の移転を要求した。
日本や欧米企業は格段に低いコストに魅せられ、生産拠点を中国に移した。
そして、生産拠点の移転は技術の移転を意味する。。。
結果は、目に見えている。
今ではレアアース(希土類)と呼ばれる十数種のレアメタルの大半が中国で生産、加工されているのだ。(レアアースは経済戦略的にも非常に重要で需要の高まりが期待されている)
中国は、中国に生産拠点を移さない製錬業者にはレアメタル鉱石の供給を制限。
まさに、一次産品を有する国の最大の切り札を活用したのだ。
これによって、中国に拠点を移さない企業は衰退の目を見た。
今でも、高い技術力を武器に日本や欧米企業でレアメタルの精錬を行う企業はあるが、
今後中国企業が追い越し、取って代わる可能性は十二分にある。
レアメタルの話を聞いただけでも、一次産品を有することの強さが
身に染みて分かるのではないだろうか?
一次産品を有していれば、需要のある他国に脅しをかけられる。
そして、その脅しをうまく使えば、終いに他国の技術とビジネスを取り上げることができるのだ。
ああ、おそろしや一次産品。
3.過去に起こった一次産品をめぐるクラッシュ
始めにもちょろっと触れたが、レアメタル以外の一次産品でも
数多くの争いが起こってきている。
20世紀で言えば、石油危機。
産油国が、石油の供給を制限して
石油を持たない国々を恐怖に陥れた。
ベラルーシもロシアから離れられないのだ。
では、もっと時代を遡ってみるとどうだろう。
一つは砂糖。
新大陸からコーヒーや茶が伝来したヨーロッパでは、
一大ブームが起こった。
コーヒーと紅茶に砂糖を入れるため、砂糖の需要も激増。
多大な土地と人員を要する砂糖栽培はヨーロッパでは行われなかった。
では、砂糖が欲しくてたまらないヨーロッパ人はどうしたか?
砂糖を新大陸で大規模生産させたのだ。
そして、その労働力はアフリカの奴隷!
新大陸で広大な土地を持ったイギリスは、この砂糖の貿易で莫大な富を得たという。
このイギリスの事例を見ても、一次産品を持つことが大事なのだと分かる。
砂糖を生産していたのはイギリス本国ではなく、イギリスの植民地だが、形は違えど砂糖の生産拠点を持ったイギリスは強かった。
砂糖の話で出てきたお茶にも面白い例がある。
お茶は元々中国が由来。
清国はお茶をヨーロッパへ輸出することで、莫大な量の銀を獲得。
気候条件などから、ヨーロッパでは栽培がなかなかできなかったようだ。
なので、中国に依存せざるを得ない。
その結果、イギリスは対中貿易で巨額の赤字を計上。銀が流出した。
一次産品すごい…。
しかし、これを良く思わないイギリスは、現代ではなかなか受け入れがたい措置をとって貿易赤字を解消した。
それが、アヘンの輸出である。中国人をアヘン漬けにして、アヘンによってお茶の輸入分を相殺する。というか、むしろ清国側が銀の流出に苦しむようになった。
これはまあ、一次産品が招いた災禍とも言えましょうな。
最後にもう一つ、加工過程のぶんどりにも関連する話を一つしておきたい。
登場人物は主にイギリスとインド。
元々インドは、綿花の栽培に加えて綿製品を作っていた。
インドと交易を始めたイギリスは、この綿布に目をつけてインドから輸入。
のちにヨーロッパで綿布ブームが起きて、ヨーロッパに大量に輸出できた。
イギリスとしても利益になる話だが、イギリスは綿布をも自前で作ろうとした。
利益が欲しいのはもちろん、綿布を自前で作る土台もしっかり準備できていたからだ。
まず、綿製品の原料となる綿花。
これは、新大陸のプランテーションで大量に作らせた。
これをイギリスで加工し、綿製品にできる。
ただ、これだけではインドに勝る綿製品とは言えない。
しかし、イギリスは競争力をぐっと上げる発明をしてしまった。。。
それが、紡績機の発明である。アークライトとか、世界史の授業で聞いたことがあるかもしれない。
この発明によって、綿製品の大量生産が可能になり、ついにはインドの綿布に勝る競争力を手に入れたのだ。
これによって、かつての綿製品輸入者のイギリスは綿製品の輸出者に大化けし、逆にインドは綿製品の輸出者から原料である綿花の輸出者に転落した。
この話で何が言えるかというと、モノによっては一次産品を有してても安泰ではないということ。
綿花が新大陸でも生産できてしまったことで、まずインドの独占状態にはならない。
そして、イギリスの発明によって技術力、コスト面でもインドは負けてしまった。
もし、綿花がインドでしか作れない植物だったならインドは綿製品を作り続けており、イギリスの覇権はなかったのかもしれない。。。
つまり、一次産品供給網の多様化は非常に重要だということ。
レアメタルに置き換えると、もし中国以外でも多くのレアメタルが産出されるようになれば、中国も安泰ではないよね、ということ。
また、イギリスの紡績機の話からは、技術力というファクターも競争力の構図をガラッと変えうることが分かる。
一次産品の供給網をベースに、技術力をつけ、生産コストを下げ、その技術的優位を保ち続けることができれば、その商品の最大生産者になれるかもしれないのだ。
長々と書いてしまいましたが、どうでしょうか?
一次産品は歴史上で数多くの対立、繁栄を生んできました。
それに翻弄されてきた人たちは本当に多い。
一次産品の優位性を以て、巨額の富を成す人もいる。
でも、その構図は絶対的なものではない。
何らかの防止策で、独占状態を回避できることもあるだろうし、
一次産品が無くても技術を磨けば、なにか利益がこぼれてくるかもしれない。
21世紀の一次産品争奪戦はどういうものになるのか。
誰が勝者になるのか。
過去の出来事と重ねながら、楽しんで見られたらなあと思う。